GO Bicycle

撮影を振り返って


 このルポを皆さんがご覧なっているときは映画『メッセンジャー』は無事、完成の運びとなっていることだろう。さてどんな仕上がりになっているか、映画評論家の〈眼〉でじっくり観させていただくとして、いまこの瞬間(7月中旬)まで一度もラッシュ(荒編集)などフィルムの上の『メッセンジャー』は観ていません。楽しみはあとに取っておきましょう。

 さて、撮影中、馬場監督らメインスタッフの間でちょっとした呼び名が流行ったことを、馬場監督に教えてもらった。それは「DFI」という言葉だが(馬場監督が〈テレパル〉などに書いていたから知っている方は多いかもしれない)、〈ディレクター・ファッキング・アイデア〉の頭文字である。「監督のどうしようもない思いつき」とでも丁寧に親切に綺麗な言葉で訳しておきます(ストレートに訳そうものなら、とんでも問題になりかねませんから)。  この場合の「監督」はもちろん馬場監督である。撮影監督の長谷川元吉さんが馬場監督の、ほとんど突発的とも思えるアイデアの洪水に対してジョークたっぷりに言ったのがきっかけ。以来、現場でちょっとしたブームになりました。

 で、私はこの表現が気になって気になり、アメリカ映画の現場で仕事をしている友人の撮影スタッフに訊いてみた。

「なぁ、いま『メッセンジャー』という東京の自転車便を描いた映画の現場に通っているんだけど、そこで〈DFI〉という呼び名が流行ってるんだ、知ってるかい?」

「D、DFI?」

「そう、ディレクター・ファッキング・アイデアの頭文字らしい」

「おいおい、スゲぇこというな(笑い)。日本映画はいつからイッチャったんだよ〜」

「そっちでも使われているのかい?」

「さぁ? あまりというか、ほとんど聞いてことないなぁ。知り合いに聞いておいてあげるよ」

 しばらくして、くだんの友人から返事がきた。それによると、この呼び名は現在でもときどき「使われる」ことはあるそうだ。どうやら70年代の前半、アメリカン・ニューシネマ派の連中が使い出したのが始まりだとか。「歴史ある業界用語」と言ったところか。

『メッセンジャー』がきっかけで日本映画の現場でも流行ったりして。流行に敏感なホイチョイ・プロの面目躍如、といったところかな。でも、くれぐれもエンディング・クレジットに「スペシャルサンクス By DFI」と入れないでくださいね、馬場監督。


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