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正しいアクションシーンの鑑賞法


 この「バイシクル・コラム」も10回目、なんと最終回を迎えることとなりました。(もともと「10話完結」というおハナシだったものですから、たぶん最終回なんでしょう。ラブコールがかかれば続投させていただきますが……)
 さて最後の話題は何にしようかと悩んでおります。本当は「最後はやっぱりメッセンジャーバッグについて」だと思っていたのですが、このメッセンジャーバッグのことは現在発売中の「BE-PAL」(9月号、370円)のP.26にきれいな写真入りでくわしく紹介させていただくことができたので、ぜひこちらを全国書店にてお買い求めください、とさせていただいて別のおハナシをしてまいりましょう。(この本、メッセンジャーバッグに関しては、いままで出たどの本よりしっかりモノ情報が載ってますので、要チェックな一冊です)

 今回のテーマは「正しいアクションシーンの鑑賞法」。映画のアップテンポなリズムを作り出していたアクションシーンですが、目線を変えて「どうやって撮ったんだろう?」と想像すると、これがまた楽しいものなのです。
 まずは、草なぎサンがオートバイ便・服部の頭上を飛び越えるCMでもおなじみのあのシーン。アクションを担当したのは全日本のMTBダウンヒル大会で活躍中のプロライダー「猪俣康一」選手です。MTBの数ある競技のなかでも最もスピードとテクニックを必要とするダウンヒルのプロライダーだからこそできたアクションといえるでしょう。
 アクション現場は港区芝浦の「札の辻・グランパーク」。当日は、このアクションのために早朝から大勢の美術スタッフがスタンバイし、木製の長さ20メートルほどある助走&ジャンプ台と、高さ2メートルほどの着地台を設営することからはじまりました。映画のなかではジャンプは1回ですが、実際はカメラ位置を変えながら20回以上飛ぶことになるため、しっかりしたジャンプ台が必要だったのです。設営が終わるころには鈴木の衣装&メイクを施した猪俣選手がスタンバイ。こうしてアクションシーンの撮影がはじまったのです。
 このシーン、よく見ると、飛び出すシーンと、頭上のシーンと、着地のシーンが編集されてできていることがわかるハズ。その度にカメラ位置も変更されています。カメラがどのあたりにかまえていたのか、試写会を見た人も次に観るときにはもう一度チェックしてみてください。それにしても何度飛んでも寸分のくるいなく同じポーズをキメてくれる猪俣選手は「さすが」の一言。より激しいアクションに見せるためにとカメラアングルを決めていく長谷川カメラマンの意欲的な姿も印象的でした。

 尚実の品川駅を抜けるシーンでは、MTBトライアルのチャンピオン、有薗啓剛選手が登場しています。8/16 日ON AIRのSMAP×SMAPで、先生役で登場していたあの選手です。スマートなボディをいかし尚実の衣装&メイクに身をつつみ、果敢にアクションに挑戦してくれました(女装していたんですね)。ジャンプシーンに使われたのはお台場にある「東京テレポート駅」。ここにも大がかりなジャンプ台が準備されました。
 当日は駅構内を歩いている人たちという設定で約200人のエキストラさんたちがスタンバイ。もう熱気ムンムンといった雰囲気です。しかし有薗選手は幾度となく大観衆のなかでのアクションを決め、チャンピオンを獲得してきたヒト。緊張することもなく無事アクションを撮り終えました。劇場ではどこまで実際に飯島さんが走っていて、どこからが有薗選手なのかをチェックしてみてください。実際に現場に立ち会っていた僕ですらだまされてしまうほどみごとに編集されていますヨ。

 何気なく見れてしまうMTBの走行シーンも見モノです。たとえば東京駅から走り出し、バスの真横を併走する尚実のシーン。カメラはどうやって尚実と併走したのでしょう? じつはこのシーン、尚実はタイヤのないMTBに乗っているのです。これもかなり大がかりな撮影セットでした。このネタあかしはあえてしないでおきましょう。もう一度劇場でチェックしてみてください。スゴイことになっていることに気が着いてもらえるかもしれません。(え? 撮影風景の写真をのせちゃうんですか、クロダさん。じゃぁ、まあ、それもいいでしょう)

 映画のなかでの自転車のアクションシーンというと思い出されるのはやっぱり「E.T.」かもしれません。ラストのBMXに乗った子供たちのシーンは凄いものでした。が、よく観るといろんなところに「映画のウソ」が隠されています。少年時代のBMXのトップライダーもスタントマンとして走っていておどろきます。
 そして「メッセンジャー」のMTB特撮シーンは少なくともこの「E.T.」よりも数段高度な特撮が行われていました。日本の映画スタッフもなかなかやるもんです。ぜひ次に観るときには「カメラはどうやって撮ったのか」にも注目してください。そして見終わったあとに「どうやって撮影したのか?」で盛り上がっていただければ幸いです。


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