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馬場康夫監督のこと


 今度で4作目。いまの日本映画界の現状では監督4作目ともなればもはや中堅クラス。しかもこれまでの3作合計の配給収入は約25億円。りっぱな〈ヒットメーカー〉である。さぞや自信にあふれ風格も出てきたかな、と思いきや全然そうじゃない。むしろ、まだまだ新人といった感じなのだ。馬場監督の顔を知らない人に「現場でいちばん良く動いている人です」というとすぐ「あぁ、あの方ですね」と分かってくれる。それほどまでによく動くこと。これには少しどころか大いに驚いてしまった。

 エバらなくてもいいが、もうすこしド〜ンと構えていたほうがいいのでは、とこちらが心配するほど。若い、アシスタントのアシスタントといったスタッフにも親切丁寧な態度で接している。「こちらが戸惑うほど優しくて親切で言葉使いが丁寧です」とあるスタッフは馬場監督の人柄の良さをホメる。「きっと育ちがいいんでしょう」撮影が進むに連れて馬場監督の人気は高まるばかり。「次の作品でもごいっしょしたいですね」という声も聞こえる。

 監督デビュー作『私をスキーに連れてって』(八七年)からずっと撮影監督を務めている長谷川元吉さんは「こちらの意見をキチンと聞いてくれ、状況に応じて撮影プランを修正します。人付き合いと人を動かすことにたけている。それって現場ではとても大切な技の一つなんですよ」。「よ〜いスタートっ!」という掛け声もいつも元気いっぱい。カメラに同調しているモニター画面を食いいるように見つめているその姿は、映画好きの少年が映画と〈戯れ〉、夢中になっているといった感じ。じつに微笑ましい。

 あるとき「エッこういう撮り方もできるんだ」と撮影スタッフの仕事ぶりに感心したことがあった。「毎日が勉強ですよ」、なかなか言えることではないことを、いともあっさり口にするところが馬場監督の人柄の良さ。心優しい、観た人が感動できる映画を創り出す源は監督のその性格の良さだと思える。「一場面一場面、俳優さんの芝居を観ているだけで感動してしまいます。なんてウマいんだろう、とウットリ見惚れてしまうこともありますよ」。

 映画ファンが監督になったみたい。そう言えば、かのスピルバーグ監督もデビュー間もない頃「憧れていた俳優の演技を目の前で観られるだけで感動してしまった」そうだ。映画監督の特権ってそれだと思う。馬場監督はいま、『波の数だけ抱きしめて』(91年)以来8年ぶりの「映画監督の特権」を味わっていることだろう。

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