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清水尚実役・飯島直子のこと


 某日、日本女子大に近い東京・目白のとある銭湯でロケが行われた。映画前半、草なぎ剛扮する自転車便〈TOKYO特急〉のリーダー・鈴木宏法が、飯島直子演じる清水尚実を誘って湯につかりに来た場面。尚実はその日が自転車稼業初日。クタクタになって銭湯にやってくるのだ。

 撮影現場に突如、「ギャッ〜」と悲鳴が上がった。まるでホラー映画に響き轟く絶叫を思わせた。なっなっなにが起こったというのか? 撮影スタッフが目撃したのは顔、首、腕、太ももから下、赤々と日焼けし、なんとも痛々しそうな飯島直子だった。自転車走行シーンの撮影でもうそんなに日焼けしてしまったのか?「痛そうですね」と心配するスタッフをよそに、当のご本人は今度は元気を装い、赤々と日焼けしたところを叩いてみせたりするのだ。なんということ。そこまでガマンしなくても、さっきの悲鳴でその痛さ十分、分かりましたから。

 なんていうのは、もちろんジョーク。赤々とした日焼けのあとはヘアメイクさん苦心の〈メイキャップ〉です。でも本当の日焼けと勘違いしたスタッフはいたのです。それほどお見事なメイク。馬場監督も「ホント痛そうですね」と上機嫌。ここまでリアルだと単なるメイクではなく、〈特殊メイク〉と評価したい(『メッセンジャー』はホラー映画ではありませんけど)。

 で、先の悲鳴のことだが、もちろん演技です。尚実は高級ブランドのプレス(広報)として活躍してきた。化粧、日焼けには人一倍、気を遣ってきた。それが自転車便で働くことになり、一日自転車で走ったら赤々と日焼けしてしまった。そんな姿を銭湯の大きな鏡で見て、日焼けの痛さというより、日焼けのショックに絶叫したのだ。

 撮影現場に轟いた悲鳴は飯島直子の懸命なリハーサル。日焼けメイクを知らないスタッフが「スワ、一大事!」と色めきたったのだ(本当かな?)「痛さとショック、その両方で体が硬直、そんな尚実を表現してください」馬場監督から声がかかる。「はぁ〜。ガンバるぞ!」鏡に映る自分に気合を入れる飯島直子。馬場監督の「スタートッ!」の声。カメラ回り出す。尚実のアップ顔。「ギャッ〜」 再び絶叫が銭湯内に響き轟き渡る。「オーケッ!」飯島直子の気合充分の名演技、乞うご期待!

 ちなみに映画では彼女の悲鳴の瞬間、鈴木ら男湯の客たちが一斉に声のしたほうを振りかえるという展開になってます。楽しい場面になっている。

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