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撮影舞台のこと


 主人公・鈴木(草なぎ剛)や尚実(飯島直子)らの「東京エキスプレス」のオフィスは東京タワーを間近に眺めることのできる場所、という設定になっている。実際、ロケは東京タワーに手が届きそうな、芝公園の目の前、赤羽橋付近の一角で行われた。既存の木造二階建ての建物の一階部分を改造し、自転車便のオフィスに造り替えた。それにしても、よくまぁこういう場所を見つけるものだ、といつもながらロケ・コーディネーターの目利きの良さには感心する。

 「東京エキスプレス」の建物といっしょに東京タワーが映り込む場面の素晴らしい景観美にファンはうっとりし、そして、東京タワーは巨大な映画セットのように見えることだろう。ひょっとして『メッセンジャー』は、本物の東京タワーをリアルな映画セットにしてしまった作品として記憶されていくかもしれない。

 そんな巨大セット「東京タワー」がもっとも効果を発揮している場面は、シーンナンバーで言えば〈110〉。ある夜のこと、鈴木と相棒の横田(矢部浩之)が自転車をメンテナンスしながら、「いろいろ辛い目におうたけど、楽しいことかてたくさんあった。俺、おまえに感謝してる…」と横田が鈴木に話しかける場面だ。カメラはゆっくり2人に近づいていく、縦移動ショット。フレームいっぱいに2人を入れたあと、もとの場所に戻るようにゆっくり後退する。そして画面右手の東京タワーにフォーカスを合わせながらパンアップ(カメラが横に振りながらレンズを上に向けること)していく。見事に美しく、ファンタスティクな映像になっている。

 「東京エキスプレス」のオフィスのすぐ隣に東京タワー下の「タワーボウル」がある。かつてここに入っていく緩やかな坂道で撮影された映画があったことを思い出した。岸谷五朗を一躍売り出した『月はどっちに出ている』(93年)である。その映画の中で、新米のタクシー運転手が会社に電話をかけ自分の居場所を教えてもらう場面がある。最初に電話してきたのが「東京エキスプレス」の近く、タワーボウルの坂道にある公衆電話からだった。
 『メッセンジャー』と『月はどっちに出ている』は〈お隣同士〉なのだ。


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