GO Bicycle

P's ダイナーのこと


 ホイチョイ・ムービーには面白い共通項がある。主人公らが必ず〈溜まり場〉を持っていることだ。第一作『私をスキーに連れてって』は三上博史らスキー仲間が集まるおしゃれなバー。第二作『彼女が水着にきがえたら』はヨット仲間が冒険話を自慢し合うカフェ・レストラン。第三作『波の数だけ抱きしめて』は中山美穂のDJブースのあるサーフ・ショップ。

 そして今回の『メッセンジャー』では〈P's(ピーズ)ダイナー〉というアメリカの簡易食堂(ダイナー)風バーが登場してくる。「トーキョー・エキスプレス」のメンバーが一日の疲れを取りにここへ呑みにやって来るのだ。一日100便こなすための5人のメンバーが揃うのがここ。仕事の依頼が順調に増え月額300万円の売上を記録、その祝宴が催されたのもここ。映画のラストシーンの舞台となるのもここである。「トーキョー・エキスプレス」のオフィスとともに重要な場所である。

 日活撮影所第8スタジオにその姿を出現させた「P's ダイナー」。店内にはアメリカ、イギリスから撮影のためだけにわざわざ取り寄せた高価なアンティーク品がズラリと並べ飾られている。装飾担当のスタッフの説明では「1923年頃の、いちばん強かった頃のニューヨーク・ヤンキースの選手たちを型取ったフィギアでしょう。約80万円です」 ベーブ・ルース、ルー・ゲーリックら当時の主力選手が一列に並んだ40センチほどのフィギアだ。なかには、一見おんぼろの缶なのだが「歴史的価値のある」ものだそうで、たった一つ、いやひと缶で9万円という値札がついているのもある。

 撮影現場には「高価ものが使われています。くれぐれも気をつけてください」という張り紙が二ヶ所にデカデカと貼られていた。スタッフは傷つけてはいけないと気を配り撮影を続ける。「三ないし四方向からカメラで狙い、店内のアンティークを一応全部見せるつもりです」と馬場監督。狭い店内、その中を「トーキョー・エキスプレス」のメンバーが陣取り、彼らをキチッとカメラにフレームインさせながら、なおかつアンティークの品々まで見せていく。今回のホイチョイ的〈溜まり場〉描写はなかなかに凝った絵作りになっていることだろう。


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