GO Bicycle

脚本家・戸田山雅司のこと


 シーン88、〈P's ダイナー〉。一日中走り回って、クタクタになった自転車便のメンバーがカウンターに倒れこむ。そんな中、尚実が「日中、同じとこばっか何べんも何べんも走らされて」とボヤいている。そのひと言が鈴木にあることをひらめかせる。「それ!」と言って鈴木はお店の黒板に絵を書きながら説明する。自転車同士がある地点で出会い、互いの荷物を交換、そうすれば担当エリアでも配達に集中することができる、と。実際に行われているシステムだ。
 映画の見せ場はメンバーがある地点で交錯し、荷の受け渡しがスピーディに描写される場面だ。いわば。このシーン88はその後の展開のキーとなる大切な場面。こういうのを〈映画のヘソ〉という。

 脚本家・戸田山雅司がこの場面の撮影に立ち会った。
「ドラマのキーポイントですからね。気になって、つい見に来てしまいました」
戸田山雅司は注目の若手ライターだ。映画ではこれまで『7月7日、晴れ』(96年)『シャ乱Qの演歌の花道』(98年)を書いている。
 撮影は深夜にまで及んだ。映画のキーだけに馬場監督も普段以上の熱の入れようだ。戸田山はセットの隅でジッと見つめている。俳優さんも疲労がピークに達しているようだが、懸命に演じている。みんながこのシーンの重要さを知っている。

 テストが何回となくくり返される。そうしてようやく本番の声がかかった。カメラ回る。鈴木役の草なぎ剛が黒板に絵を書きながら、一気に説明する。草なぎの演技にテスト以上の力が入っている感じがする。飯島直子の芝居も快調。「カ〜ット!」 馬場監督の声がスタジオに響く。その瞬間、戸田山は右手で小さくこぶしをつくり、軽くガッツポーズの格好をした。
「良かったです、はい。これでこのもう大丈夫でしょう」
満面に笑み。満足そうな表情が印象的だった。

 シーン88、〈P's ダイナー〉の場面を観るのが楽しみだ!


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