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ステージにスティディカムが入った!


 東京・多摩川、日活スタジオの第8ステージ(アメリカでは各スタジオ棟をステージと呼びます)に造られた『P's ダイナー』のセットに、普段見なれない形をしたカメラが置かれた。

「オッ〜と、スティディカムではないか!」

と驚くことしきり。ホイチョイ・ムービーにもついにスティディカムが導入されるようになったか。長年ホイチョイ・ムービーを観続けてきた者にとってはちょっと感動的だった。十六ミリカメラをしこしこ回す、といった学生の自主製作のノリみたいな雰囲気を持ってスタートしたホイチョイ・ムービー。世界の映画の最新システムといわれるスティディカム・カメラが入ろうなどとは考えてもみなかった。

 スティディカム・カメラ。アメリカ映画を観ていると必ずあるでしょ、画面が微妙に横揺れしながら、主人公らを懸命に追いかけるショットが。また、たとえば、狭い通路やオフィスの中をカメラがどんどん突き進むシーンが、しかも画面が全然ブレないで。そういう場面を撮影するときに用いられるのがスティディカムというシステムなのです。
 カメラマンは体の前にカメラ本体を担ぐ。カメラの下部分に小型ビデオモニターが同調されていて、カメラマンはこのモニターを見ながらカメラの動きを決めていく。カメラは利き腕とほぼ密着。体の動きや腕の動きにカメラ本体が同調しているため、画面にブレは生じない。

 狭いバーの中、鈴木や清水ら『トーキョー・エキスプレス』のメンバーのパーティが始まる。スティディカムが彼らの中へ入っていき、それぞれの表情をとらえる。流れるようなカメラの動き。スティディカムの威力、その画像の魅力がいかんなく発揮された場面となっているだろう。

 このスティディカム・カメラを開発し、映画に初めて導入したのは、今年、惜しくも亡くなったスタンリー・キューブリック監督が、ジャック・ニコルソン主演の『シャイニング』(80年)のために開発したのである。ホテルの廊下を三輪車走らせるトランスの子ども、カメラがそのあとを不気味に追う。雪激しく降る迷路のような庭の中をトランスが斧片手に妻と子を追う、カメラが鬼のような形相のトランスを懸命にとらえ続ける。そうした場面にスティディカム・カメラが使われていった。このカメラの誕生でそれまで撮影不可能といわれた難しいシーンなどを撮ることが可能となり、なによりも撮影時間の短縮を可能となった。

 「キューブリックが考案しなければ『メッセンジャー』のその場面はどう撮っていったのだろうか?」、そう考えると、映画というものはじつに面白い。


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